前回に続き、聞き手の感情を動かし、共感を得るために必要といえる、エモーショナルなスピーチについて。
エモーショナルなスピーチという言葉は、スティーブ・ジョブスによって一時流行しました。
聴衆の感情を盛り上げ、自分の世界にぐいぐいと引き込んでいく彼のスピーチに衝撃を受け、彼のような“エモーショナルなスピーチ”がしたい!という人が徐々に増えてきたのです。
ただし、ここで誤解してはいけないのは、
“エモーショナルなスピーチ”とは、感情的に話すことではなく、あくまでも聞き手をエモーショナルにするスピーチのことです。
実は、スピーカーのほうがあまりにも感情を高ぶらせてしまうと、聞き手には話し手個人の感情だけが伝わってしまい、スピーチの内容への共感に至らないからです。
例えば、テレビのアナウンサーがボロボロ泣いて悲しいニュース読んでいたのでは、視聴者にはアナウンサー個人の感情ばかりが伝わって、ニュースの悲惨さへの共感は生まれにくくなってしまいます。
スピーチの場合も必要なのは、スピーチの内容に対して相手の「共感」を得ることです。
聞き手の「共感」は意図して引き出す。
結婚披露宴などのスピーチでも、「共感」の要素を活用できます。
聞き手にどういう感情を抱かせるかという目的をはっきりさせると、スピーチの内容は自ずと決まってきます。
この場合の聞き手は、“新郎新婦やその家族、そして二人の結婚を祝うために集まっている人たち”。
スピーチの目的は「新郎新婦の“幸福感”を出席者全員で共有すること」でしょうから、そこにいる誰もが“幸福感”を感じられるような新郎新婦のエピソードを、“幸福感”にあふれた言葉を多く取り入れてスピーチを構成すれば良い、ということになります。
「共感」の主役は聞き手側にあります。
しかし必ずしも、それが聞き手だけに委ねられたり、偶然生まれたりするわけではありません。
説得のために必要な「感情」を抱かせるよう、スピーカーが聞き手を意図的に導くのです。
スピーチやプレゼンの際には、「何を何分で説明するか?」「どういう資料が必要か」といったことばかりに気を取られてしまいがちです。
もちろんそれも大事なのですが、聞き手にどういう感情を抱かせたいのかを明らかにし、意図する感情を引き出すための策も練るようにすれば、スピーチやプレゼンの目的が果たされる可能性は飛躍的に高まります。
エグゼクティブスピーチトレーナー 野村絵理奈